脳神経ファイル
診療時間
時間/曜日
9:00−12:00
14:00−16:00
リハビリ/検査
17:00−20:00
※○は診察、△は検査およびリハビリのみ、
 −は休診です。
※土曜日は、9:00−13:00まで診療致します。
※休診日 木・日/祝日
※脳ドックは、随時受け付け致します。
診療科目
脳神経外科(MRI/CT検査)
内科・脊椎外科・リハビリテーション科
かづきクリニック
かづきクリニック
〒630-8115
奈良市大宮町5丁目1-10-1
TEL:0742-32-3201
※駐車場あります(20台)
クリニック前駐車場(3台)、第二駐車場(14台)
当院西隣の伏見駐車場の1番、2番、3番が使用できます。
駐車場位置については、受付でご確認ください。
ここでは毎月一回、マイタウン奈良に掲載されている輝いて生きるために/脳神経ファイルを紹介させていただきます。
脳と神経に関する病気や症状について少しでも知っていただくことで、無用な心配をせずにすむように、また必要な診療を受けていただけることの一助になればと思います。
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2007年度

・動脈硬化症とは(2007.12)

前回は動脈硬化の程度を知る方法について紹介しましたが、「そもそも動脈硬化ってなんですか?」と聞かれることがしばしばあります。これまでにも動脈硬化については、この欄で記してきましたが、今回は今年の締めくくりにもう一度、動脈硬化 とは、について書いておきたいと思います。基本的に人間の血管は他の関節や皮膚などと同様、年齢と共に硬くなり、弾力性が失われていきます。この硬くて弾力性のなくなった血管の状態が動脈硬化と呼ばれる物です。ですから、どんな方でも動脈硬化が進まない人はいないと言えます。ただ、なんにでも年齢相応があるように、動脈硬化の程度も年齢相応を越えてくると様々な疾患を合併することになります。まず、硬くなった血管は血管の内壁にアテローム(粥状硬化)と呼ばれる隆起が進行し、やがて内壁がはがれ落ちて血栓が形成され、血管を塞ぐことになります。ふさがれた血管が脳の血管であれば脳梗塞に、心臓の血管であれば心筋梗塞ということになります。つまり、三大疾病(がん、心筋梗塞、脳梗塞)は年齢と共に増加する疾患ですが、これらの大半が動脈硬化に起因するものといえます。言い換えれば動脈硬化の進行を予防することが、寿命を延ばすことにつながると言えます。動脈硬化を年齢以上に進行させる要因が、高血圧、糖尿病、高脂血症、の生活習慣病や喫煙であることはすでにかなりの疫学調査で証明されています。なぜ生活習慣病は治療した方が良いか、なぜ喫煙がいけないか、は全て動脈硬化の進行を防ぐことにあるということを十分ご理解いただければと思います。

・動脈硬化度の測定(2007.11)

現在、奈良市では例年通り自治体による基本検診が12月末までの期間実施されています。長年親しまれ、地域に根付いてきたこの制度も、今年が最後になります。来年度からは特定健診・特定保健指導と称した新たな健診制度が始まる予定です。健診の主眼はメタボリックシンドロームの診断におかれ、これを減少させることと、改善指導により生活習慣病の発症を抑制し、将来の医療費を削減することが目的とされています。結局のところ、動脈硬化の進行の程度を早期に把握することが医療費の削減につながるということです。現在の健診でも血液検査の項目の欄に動脈硬指数が数字で示されているのですが、これは総コレステロールにしめる善玉コレステロール(HDLコレステロール)の割合から算定した物で、直接、動脈硬化の程度を示すものではありません。むしろ悪玉コレステロール値(LDLコレステロール)を計測する方が意味のある物かと思います。新たな健診制度ではLDLコレステロールの検査も含まれているようですが、最近では動脈硬化の程度を知るためにはもっと直接血管の状態を知る方法として、脈波伝導速度の測定や頸動脈エコーが用いられます。脈波伝導速度検査では、柔らかい血管であれば血流速度は血管壁に緩衝されて遅く、硬い血管であれば緩衝されずに速くなることなどを利用して、動脈硬化の程度を知ることが出来ます。また同時に四肢の血圧測定により下肢の血管狭窄の有無も評価できます。頸動脈エコーは血管壁の厚みを測定することで、動脈硬化の程度や血管狭窄の有無を見ることができます。いずれも健診項目には含まれませんが、動脈硬化の程度は単一の検査で評価出来る物ではありませんので、様々な方法でご自身の動脈硬化程度を評価することが大切です。

・メタボリックシンドロームの治療(2007.10)

メタボリックシンドロームについては以前この欄でも書いたことがありますが、最近では流行語大賞にも選ばれるほどに関心の高いものになってきています。メタボリックシンドロームは簡単に言えば「肥満は万病の元」とでも言えるもので、太りすぎは生活習慣病につながりますよということです。以前から肥満は身体には悪いことは知られていましたし、内容的には目新しい物ではないのですが、そのネーミングがマスコミ受けした部分がかなりあります。最近の研究によれば、肥満が身体に悪い原因については、内臓脂肪が、様々な生理活性物質を産生し、血圧調節や耐糖能、あるいは動脈硬化の進行に関与することにあるといわれます。内臓脂肪の量がある一定量(内臓脂肪100cc以上:臍周りで男性85cm、女性90cm)を超えると生活習慣病の危険性が高くなるため、メタボリックシンドロームの治療は内臓脂肪を減らすことが主眼になります。つまり、やせましょうと言うことですが、やせるために日本人の多くが苦労していることを考えれば、治療が非常に難しい物であることが分かります。それでも放置しておくわけにはいきませんので、やはり運動と食事療法が必要になってきます。食事についてはほとんど過食が原因と言われますので総摂取量をまず減らすことになります。運動は日に30分以上の有酸素運動(ウオーキング、水中歩行、体操など)で大きな筋肉を動かすことが勧められます。運動の程度としては自身できついなと感じられるよりやや軽い程度の運動で、心拍数にすると100―130程度が目安になります。一番大切なことは、メタボと言われた方がまず肥満について問題意識を持つことといえます。

・パーキンソン病(2007.09)

パーキンソン病とは、脳内で産生され、主に身体のバランスを取る役割を果たしているドパミンという物質が不足して生じる疾患で、脳の変性疾患としてはアルツハイマー病に次いで頻度が多いとされています。症状は、振戦、固縮、無動、姿勢反射障害などですが、一般には分かりづらく、そのため、変性疾患は主に神経内科の領域になるのですが、脳梗塞などを心配されて脳外科へ受診される方がかなりおられます。症状をもう少しわかりやすく言うと、「手の震え、表情が乏しくなる、転倒しやすく歩幅が小さくなる」ということになります。もちろん脳梗塞などの際にも手の震えや、転倒しやすいなど同様な症状を来すことはあり、MRIなど画像診断は欠かせないものですが、原則的にパーキンソン病の場合、MRIなど画像診断上は異常がないとされており、診断は主に症状から判断することになります。だいたいの症状がそろっていて、画像診断で問題がなければパーキンソン病と診断され、治療は主に薬物療法となります。以前はドパミンが不足することが原因であることから、ドパミンを補給する内服薬が主な治療でしたが、治療期間が長くなるにつれ、副作用などの問題が出てくるために、最近では出来るだけドパミン製剤の使用を先延ばしにし、ドパミンの産生を促進する薬剤が中心になってきています。ここまでの治療は主に神経内科の専門領域ですが、薬物療法が効かずに日常生活にかなりの支障を来す場合には外科的治療も実施されます。身体のバランスを保つ脳内の部位を刺激したり、破壊したり、あるいはドパミンを産生する物質を移植したりするような治療が研究され、実施されています。パーキンソン病はよく耳にされるとは思いますが、初期の症状では見過ごされることが多いため、今後高齢化に伴い増加することが十分予想され、注意が必要な疾患です。

・失神発作(2007.08)

失神とは短時間の意識消失状態のことで、俗に言う「脳貧血」の状態です。脳に何らかの原因で一時的に血流が十分供給されないと、ごく短時間、脳は機能を停止して意識がなくなってしまいます。
言葉にすると難しいようですが、比較的身近な物としては「立ちくらみ」も失神発作の軽い状況といえます。当院へ相談に来られる中で比較的多いものに、「朝起きてトイレに行った際に意識を失っていた」という症状があります。これは排尿性失神と呼ばれ、排尿(我慢していたときに多い)により迷走神経が刺激され、脈拍が遅くなり、血管が拡張して低血圧となり、結果、脳への血流が減少し意識がなくなります。また同様に注射針や血を見ただけで冷や汗を出して失神される方もおられますが、この原因も同様に迷走神経が刺激される物で、血管迷走神経性失神と呼ばれます。基本的にこれら迷走神経反射による失神は一時的な物で問題のない場合が多く、ことさら不安になる必要もないのですが、やはり我々医師が常に注意しておくべき疾患がいくつかあります。大きく分けて脳と心臓に問題がないかということです。脳血管や頚部血管に高度に細い部分があれば、脳幹や脳への血流が一時的に途絶えるため、普段から頻繁に頭がぼーっとしたり、失神発作を来す場合があります。また失神発作とは少し異なりますが、ある種のてんかん発作では急に意識がなくなることがあり、てんかんの原因として脳腫瘍などの疾患が見つかることもあります。脳と並んで重要なのが心臓ですが、不整脈や弁膜症により失神を来すことが知られています。このほか、貧血や脱水など様々な病態で失神を来すことがあるため、「意識がなくなった」との症状で相談に来られた方に対しては様々な見方が必要になります。

・未破裂脳動脈瘤:治療の選択(2007.07)

以前この欄でも書きましたが、MRIによる血管撮影(MRA)の画像診断の進歩により、未破裂脳動脈瘤が発見されることが多くなってきています。これを治療をするかどうか判断することは非常に難しいのですが、当院での基本的な考え方は、最終的にはご本人に治療の選択をしていただくことが一番と考えています。そのためには脳神経外科の専門医としての知る限りの知識を、ご本人やご家族と共有することが必要になります。最近では脳動脈瘤を治療した数が多いほど、脳外科病院としてのランキングが上がったり、良い病院と思われがちですが、中には十分な説明もせずに破裂したときの怖さばかりを強調して手術数を増やそうとするような病院もあるようですので、その意味でも十分な知識を持っていただく必要があります。一般的にMRAで動脈瘤が見つかった場合、CTでの血管撮影や、カテーテルでの血管撮影などにより、動脈瘤の大きさや場所、開口部の広さなどを調べた結果、頭蓋骨の一部を切る開頭手術をするか、カテーテルからコイルを瘤の中に詰める血管内手術をするかの判断が必要になります。その上で手術のリスクや、瘤の破裂の危険率などを検討し、最終的にご本人やご家族が治療を希望するか経過観察するかの判断になります。血管内手術はこの10年で飛躍的に技術が向上し、開頭手術と同等の治療選択として考えられるようになってきていますが、まだまだ専門医が少ないのが現状です。出来れば開頭手術と血管内手術の両方を治療できる施設で説明を聞いた上で検討していただくことをお勧めしますが、奈良県下ではごく限られた施設でしかありませんので、いくつか異なった施設で意見を聞くのも良いと思います。

・コレステロール-最新診断基準-(2007.06)

高コレステロールは、将来の心筋梗塞や脳梗塞などの危険因子となる、生活習慣病の一つです。このため、総コレステロールの値を正常に保つことが動脈硬化を予防する上で非常に重要とされてきました。しかし、総コレステロールの値は、いわゆる善玉コレステロールと呼ばれる、HDLコレステロールや、悪玉コレステロールとされるLDLコレステロールなど様々な物質の総量で、実際には、善玉コレステロールが高くて、総コレステロールが高くなっている場合でも、結果的には異常値として扱われてきました。最近では、総コレステロール値がやや高い方が長生きするなどの報告も出てくるようになり、総コレステロールの値だけで治療の必要性などを判断することに疑問が持たれてきました。また、総コレステロールの正常値は219までとされていますが、この値をそのまま適用するとかなりの女性の場合異常値となります。240までを正常とした場合、女性の異常値は半減するとさえ言われています。このため、240程度までなら問題はないと説明されているところも多いようですが、中には不必要な投薬を受ける方や、必要以上にカロリー制限をされる方がおられることが問題となってきました。このため、最新の高脂血症の診断基準では、総コレステロールの値にかかわらず、LDLコレステロールの値が140以上であれば問題あり、としようということになりました。つまり、総コレステロールが250であってもLDLコレステロールが140までなら治療の必要はないということになります。もちろん、治療の目安は数字だけではなく、冠動脈疾患がある、無症候性脳梗塞がある、他の生活習慣病がある、などによっても変化しますが、内服薬での加療をされている方は特に、もう一度治療の必要性がどこまであるか、かかりつけ医と相談する良い機会かもしれません。

・若年性脳梗塞(2007.05)

最近、大関の栃東関が引退され、その理由が、若年性脳梗塞という疾患でした。まだ若くて、脳梗塞を発症したわけでもないのになぜ?と思われる方もおられるかもしれません。
脳梗塞と言えば比較的高齢の方の疾患という認識が一般的なため、この病名が特別何か重い病気に感じられるかもしれませが、症状や原因などは高齢の方の場合の脳梗塞と共通することが多く、特別な疾患というわけではありません。ただ、30から40代の方にでも脳梗塞が起きるという認識を持つことと、メタボリックシンドロームの予防を併せて考える上では重要な疾患といえます。以前この欄でも書いたように、メタボリックシンドロームとは肥満に加えて、高血圧、高脂血症、糖尿病など生活習慣病の、予備軍とも言える状態を二つ以上併せ持つ状態のことです。
若年性脳梗塞の原因の多くは、生活習慣病の合併症を有する人は高齢者ほどには多くはありませんが、喫煙者は高齢者よりも多いとされます。つまり、いわゆるメタボリックシンドロームの状態で高血圧などをまだ発症していなくても、喫煙などが危険因子となり、脳梗塞を引き起こしてしまう危険性が考えられます。その意味では、若年性脳梗塞の予防にはメタボリックシンドロームの段階での積極的な治療が必要になります。メタボリックシンドロームの治療の主な目的は内臓脂肪を減らすことで、内服薬などではなく、過食にならない、適度な運動(一日1万歩以上の歩行)など生活習慣の改善にあります。栃東関が、たまたま頭痛でMRI検査をした際に、無症候性脳梗塞を指摘されただけで引退するまでに至った理由が、関取の身体を維持するための過度なカロリー摂取や、勝負の世界での過度なストレスをさけることが、脳梗塞を予防する上で不可欠と考えた結果と考えれば、至極妥当で、勇気ある決断であったと思います。

・脊椎圧迫骨折(2007.04)

圧迫骨折とは、脊椎の椎体と呼ばれる、脊髄の前方にある骨が、上下方向の圧力によって生じる骨折のことです。高齢者の場合は骨粗鬆症を有する方に多く、転倒したり、階段を踏み外すなど比較的軽微な外傷や、物を持ち上げたり、腰をひねるなどの日常的な動作が原因でおこることもあります。症状は腰痛が主症状ですが、何かの動作後、急に痛みが強くなり、起きあがりが困難な痛みの場合は圧迫骨折が疑われます。診断はレントゲンで椎体の変形があれば容易ですが、発症後早期のレントゲンでは椎体の変形が見られないことも多く、特別問題のない腰痛と診断されてしまうことも少なくないようです。圧迫骨折の場合は、発症から1週間ぐらいで徐々に痛みが強くなることが多く、やがて起きあがれなくなって、はじめて圧迫骨折と診断されることもあります。中には椎体の後方にある脊髄を圧迫し、下肢麻痺や尿失禁などの神経症状が進行する場合もあり、レントゲンで異常はなくても圧迫骨折が疑われれば早い段階でMRI検査をする必要があります。治療の原則は安静と鎮痛剤の内服やコルセット治療ですが、かなり高齢の方の場合、動けない期間が長ければそのまま寝たきりになったりすることもあり、この様な方には、最近の治療として、骨折した椎体に骨セメントを局所麻酔下に注入する手術治療が良い成績上げています。手術後早期に、それまで立てなかった方が歩けるようになる程の効果を上げる場合もあります。圧迫骨折の原因には骨粗鬆症などの他に骨腫瘍や、多臓器からの転移性腫瘍の場合などがあり、診断と共に原因疾患の鑑別も重要で、日常的な診療の中でも比較的多いものですが、常に慎重さが求められ疾患です。

・閉塞性動脈硬化症(2007.03)

閉塞性動脈硬化症とは手や足の血管が硬くなり、血管径が狭くなった結果、循環障害をきたす疾患です。間欠性跛行と呼ばれる症状が特徴で、歩行中に下腿が痛くなったり、しびれたり、しばらく休憩すると良くなるというものです。以前この欄で紹介した腰部脊柱管狭窄症も同じような症状をきたすため、当初は脊柱管狭窄症と間違われる場合も多いようです。違いは、脊柱管狭窄症の場合は、腰をかがめると症状が良くなること、腰痛や、でん部から下肢へ放散する坐骨神経痛を伴っていることですが、これらの症状を伴わない場合もあり、慎重な鑑別診断が必要です。閉塞性動脈硬化症の診断は、まず両足の足背動脈が触れるかを診断します。次に、四肢の血圧を測定する検査機器により、上肢と下肢の血圧の差の割合を測定し、下肢の血圧が基準より低ければ下肢の血流が悪いことが疑われます。さらにMRIなどでの血管撮影によって確定診断がされます。主に、喫煙や高血圧、糖尿病などの動脈硬化の危険因子を有する人に多いことから、治療はまず禁煙や、基礎疾患の治療が必要になりますが、症状や狭窄の程度が強い場合には血液をサラサラにする抗血小板剤などの薬剤治療を始めます。症状が改善しない場合には、血管内治療により狭窄した血管を広げ、再狭窄を防ぐため、ステントとよばれる金網のようなものを留置します。また、人工血管に置き換える手術が適応になる場合もあります。動脈硬化が原因となる疾患には脳梗塞や心筋梗塞などが良く知られていますが、動脈硬化は全身のどの血管でも進行し、進行した場所によって様々な症状を来たすことを知っていただければと思います。

・認知症 早期診断へ(2007.02)

早いもので、この欄の連載も今回で61回目で、ちょうど5年を経過しました。この間、世の中の健康ブームは、もはやブームではなく、健康への関心が日常生活の一部として当たり前のようになってきています。ただ、先日も某テレビ番組でのねつ造が発覚したように、何かを摂取すればやせるだとか、これを飲んでいれば脳卒中にならないなどは、普通に考えてみればあり得ない話で、何かひとつのことですべてが解決するなどという都合のいいことは、健康を考える上でもないと考えていただければと思います。
さて毎日の診療で、MRI検査を受けられた方から、聞かれない日がないと言えるほどよく聞かれることに、「最近物忘れが多いが、認知症になっていませんか」というご質問です。ほとんどの方の場合、「大丈夫」といえるのですが、中には返答に困ってしまう方もおられます。以前この欄でも書きましたように軽度の記銘力障害の場合、加齢の範囲なのか、将来認知症へ移行するするのか、かなり判断に困る場合があります。そのため、PETやSPECTといった血流検査が診断に用いられることが一般的になってきています。ただ、これらの検査は限られた医療機関でしか実施できないため、最近では血流検査の代用としてMRIを利用することが試みられています。これまではMRIで海馬やその周辺の脳実質の萎縮の程度などを見た目で判断していましたが、それでは主観的なものに偏るので、これを1.5テスラMRIで撮影した脳の断面を、萎縮の程度を解析するために開発されたソフトで解析して、客観的な数値で萎縮の程度を示そうという試みです。認知症の早期診断は難しいのですが、より早期に診断して内服薬で加療すればかなり進行を遅らせることができるのも事実です。そのためわれわれ診断医には、できるだけ多くの診断基準ともいえる’’ものさし’’を持つことが要求されます。またそれらを有効に利用するだけの能力が必要とされています。認知症は進んでしまってからでは遅いのですから。

・脳外科医の役割(2007.01)

新年から病気の話題をするよりは、今年は我々脳神経外科医の仕事についての話から始めたいと思います。脳神経外科医の仕事といえば最近ではよくテレビなどで、緊急の手術の緊迫した場面や、非常に困難な顕微鏡手術をする先生などが紹介され、手術ばかりしているものと思われがちです。確かに救急病院では朝も夕もなくいつでも臨戦態勢の部分もあるのですが、一方で、最近では手術をすることが少なくなった脳梗塞や脳出血などの脳卒中の方の全身管理や、後遺症の管理など内科的な治療もしています。また脳外科の外来では脳卒中後、退院した方の再発予防のために高血圧、高脂血症などの生活習慣病の管理をしています。一刻を争う非常に緊張した外科的な部分から、慢性疾患の管理などの内科的な部分まで、かなり幅広い治療をしていることになります。さらに最近では、予防医学の重要性が叫ばれる中で、我々脳外科医にもその重要な役割が求められるようになってきています。例えば、くも膜下出血の原因である動脈瘤を未然に治療したり、無症候性脳梗塞の方の脳卒中予防をしたりなどです。介護保険を利用される方のかなりの部分が脳卒中後遺症の方であることから、脳卒中予防が、今後の脳外科医の果たす役割のなかで非常に重要な位置を占めるものと考えられています。年もあらたまって、当院では1月9日より1.5テスラの新しいMRIが稼働し出しました。より早く、より精密に、より多くの方々の脳卒中予防に役立てるために、今年もよろしくお願いいたします。
2006年度

・風邪と頭痛(2006.12)

今年もあまり歓迎されない風邪の流行の時期にもなりました。風邪の症状は咳、鼻水、咽頭痛、頭痛などの症状を伴ってきます。風邪に伴う頭痛は様々ですが、筋肉痛を伴うため、肩こりの時の頭痛と同様、緊張性頭痛が多くなります。治療には消炎鎮痛剤が効果的です。発熱がある場合には、血管が拍動するような、偏頭痛に似た頭痛が現れます。原因は、血管周囲の痛みの神経が充血し、強い頭痛になると考えられ、やはり熱を下げることで頭痛症状は改善します。熱を下げるには解熱剤でも良いのですが、使いすぎると治りが悪くなることもあり、できれば氷枕などを併用し、解熱剤は必要最小限にすることが望まれます。発熱に伴う頭痛には解熱剤などでは良くならないものがあり、特に髄膜炎や脳炎には注意が必要です。脳炎は比較的稀ですが、インフルエンザの流行時にはインフルエンザ脳炎が少なからず発生し、髄膜炎は様々なウイルス感染によって発症し、軽い風邪症状でも、一週間以上発熱に伴って頭痛や吐き気が続く場合には常に疑われるべき疾患です。いずれも見過ごされると重篤な状態になることもあり、入院などでの加療が必要になります。この他、日常診療で多いものに副鼻腔炎があります。鼻水、鼻づまりなどの症状があった後、前頭部などの鈍痛が続く場合には鼻の奥の副鼻腔に膿がたまり、持続的な頭痛になります。抗生物質の服用や耳鼻科での治療が必要になります。このように、風邪の際の頭痛には注意を要するものがあり、長引く場合には医師にご相談ください。
お知らせ:現在当院では1.5テスラMRI導入工事のため、MRI検査が行えません。1月からはMRI検査が可能になりますが、12月末まではCT検査での診療が中心になります。よろしくお願いします。

・脳の画像診断(2006.11)

脳の画像診断は、日々進歩していますが、発達してきたのはこの30年程度のことです。それまでは脳疾患の診断は、症状とレントゲン、頸動脈などの直接穿刺による血管撮影が主なもので、脳卒中の診断は、梗塞なのか出血なのかの区別さえ付きませんでした。それが1970年代にCT技術が進歩して以来脳の画像診断は飛躍的に進歩しています。CT以後MRIの登場でさらに診断精度が向上し、現在、一般的に脳の形態を見る検査には、CTとMRI検査、脳の血流機能の評価にはSPECT(スペクト)PET(ペット)、あるいは高次機能の評価などに脳磁図などの検査があります。よく日常診療の際に「血流の検査をしてください」、「高次機能の評価はMRIでできますか」など、かなり専門的な知識を持ったようにみうけられる方が検査を受けに来られます。言葉通りの検査であれば、当院ではできないようなSPECTやPETで、お断りすることになるのですが、よく話を聞いてみると、MRIの血管撮影であったり、MRIでの無症候性脳梗塞のチェックであったりする場合がほとんどです。最近はマスコミなどでの情報が氾濫し、様々な検査法などについての知識が混乱を招いているようです。いずれにしても、ご自分が受けたい検査を受けるのではなく、症状に応じた必要な検査を、医師と相談して受けることが重要です。お知らせ:当クリニックでは開院より5年経過し、画像診断技術の進歩にあわせて、最新の1.5テスラMRIを導入することになりました。来年1月から稼働予定ですが、工事期間中(12/1-12/30)はMRI検査ができません。ご迷惑おかけしますがよろしくお願いします。

・中性脂肪(2006.10)

中性脂肪は健康診断で血液検査などをすると、たいていの検査結果には測定値が示されていますが、コレステロールほど注目されることが少なく、一般的な関心も低いようです。
このため、当院でも血液検査の結果などを説明する際に「中性脂肪とはなんですか」という質問を良く受けます。血液検査での中性脂肪の値は、血糖値と同様に、食事からの時間で値の変化があるので、測定結果には注意が必要ですが、中性脂肪は糖分やアルコールなどカロリーを過剰に摂取した際に高くなってきます。コレステロールが体内の細胞膜やホルモンなどを生成する際の材料に使われるのに対して、中性脂肪の働きは、体を動かすためのエネルギー源として利用されるためにあり、普段あまりエネルギーを消費することがなければ、どんどん皮下脂肪や、内臓脂肪などの脂肪組織に蓄えられていきます。また中性脂肪の増加は、善玉コレステロールと呼ばれ、動脈硬化を抑制する働きのあるHDLコレステロールを減少させる働きもあり、体内に中性脂肪が過剰にたまると動脈硬化を促進することになります。このため最近では以前この欄でもご紹介した、メタボリックシンドロームと呼ばれる、生活習慣病の出発点とも言うべき状態の診断基準に取り入れられ、中性脂肪が高いことは内臓脂肪の増加を示し、将来の高血圧、高脂血症、糖尿病の危険が高くなるとされています。中性脂肪を減らすには、アルコールや糖分などの取りすぎに注意し、たまった脂肪を利用してエネルギーを消費すること、つまり、ある程度の運動が一番といえます。

・脳卒中予防と検診(2006.09)

奈良市では今年も9月から基本健康診査(基本検診)と呼ばれる検診が12月までの期間で実施されます。40歳以上の方が対象で、自治体が実施する健康診断にはこのほかに、肺ガン検診、胃ガン検診、子宮がん検診などがありますが、これらはいずれも癌についての検診で、秋の基本検診の内容は血液検査、心電図、眼底検査、便潜血など一般的な健康チェックと言えるもので、どちらかと言えば生活習慣病予防のための検診と言えます。生活習慣病の予防すなわち脳卒中予防につながると言えるものですが、今年からは、ある程度の認知症予防についてのチェックも行われるようになります。これまでの検診項目に加えて、65歳以上の方には「介護予防のための生活機能評価」とよばれる問診票が付随し、チェック項目には「バスや電車で外出できますか」、「自分で電話がかけられますか」、「日付がわかりますか」など認知症などに関する質問項目が中心になっています。問診の結果、介護予防の必要性があれば積極的に予防的な支援に取りくむことになります。また、この際には認知症の原因が脳血管性か、あるいはアルツハイマー型か、などの画像診断などでの評価が必要になる上、血液検査や血圧測定などで脳卒中の危険因子が多く指摘されれば、脳卒中予防の面での治療の必要性が検討されることになります。このようなことから、今年からの検診は、これまでの検査からだけでは分かりづらかった部分を、具体的な問診により認識でき、問題があればさらに必要な検査を早期に進めることができるようになったという点で、将来の脳卒中予防に非常に役立つものとして期待されます。

・聴神経腫瘍(2006.08)

目や耳の症状が、脳神経外科疾患と関連するものが多いことは、以前この欄でも書きました。耳鼻科と関連の深い脳外科疾患としては聴神経腫瘍があります。聴神経腫瘍は脳腫瘍のなかでも良性の腫瘍で、発育はゆっくりで、他の身体部位に転移することはありません。その意味ではすぐに生命に関わるようことはないのですが、発見が遅れると腫瘍が増大して脳幹部や周囲の脳神経を圧迫して、いくら良性といえどもやはり生命を脅かす危険がでてきます。初発症状のほとんどが難聴や耳鳴りで、耳鼻科で治療される場合が多く、治療をしてもなかなか良くならない場合や、顔面のしびれやふらつき、歩行障害などの症状が出たところで、脳神経外科へ紹介されることが多いようです。
治療は、以前までは手術が唯一の治療でしたが、大きさによって治療方針が異なってきます。
手術では、聴力が温存できない、顔面神経の麻痺を来す可能性がある、などのリスクがあることから、最近では大きさが3cm程度までであればガンマナイフという特殊な放射線治療が行われるようにもなってきています。ただ、この放射線治療で腫瘍がなくなることはなく、大きくならないように、できれば小さくなることを治療の目的としていますから、すでにかなり大きくなっている腫瘍や、顔面の感覚障害や歩行障害など症状の進行している場合には適応されません。また、大きさが小さいものほど術後の顔面神経麻痺などの危険性も小さくなることから、治癒を目的に手術治療が第一選択となる場合もあります。いずれにしても腫瘍が大きくなってからでは治療が困難になり、手術リスクも高くなることから、難聴や耳鳴りなどの症状が続く場合には、一度はMRIなどの画像診断をしておくことが必要と考えられています。

・仮面高血圧(2006.07)

高血圧は言うまでもなく、脳卒中の最大の危険因子といえるもので、このため脳卒中の予防には、高血圧が存在すればその治療は欠かせないものとなります。MRIなどの画像診断で、脳梗塞の予備軍とも言える無症候性脳梗塞が見られる場合、脳梗塞の予防としては、まず高血圧などの危険因子の治療が最優先になり、さらに必要であれば血液をさらさらにする抗血小板剤の服用が勧められます。まれに高血圧などの危険因子がないにもかかわらず、無症候性脳梗塞がかなり広い範囲で見られる方があります。このときに注意すべき状態の一つに仮面高血圧と呼ばれるものがあります。医療機関などでは血圧が正常で、家庭で血圧を測定すると血圧が高くなっているものを仮面高血圧と呼び、医療機関での血圧は正常ですから、一般に見過ごされやすく、脳卒中の危険率が高くなると言われています。仮面高血圧は、普段ストレスの強い方や、ヘビースモーカーに多いとされています。理由として、医療機関では、緊張により普段の血圧よりも高くなる白衣高血圧とは逆に、日常のストレスが強い人が医療機関を受診した際に、気分的にリラックスできることや、喫煙をすると血圧が高くなるのが、医療機関では禁煙のために血圧が正常化するためと言われています。医療機関で血圧が高いと言われても、白衣高血圧の可能性を考えて、高血圧の診断のためには家庭での血圧測定が欠かせないのと同様、普段ストレスを強く感じている方やヘビースモーカーの方などは検診で血圧が正常と言われても、家庭での血圧測定をするべきと思います。また降圧剤を服用している方も、医療機関では午前中の、薬が良く効いている時間帯に血圧を測定することが多いため、日中、あるいは夜間も良好な血圧を保てているか確認する必要があり、家庭での血圧測定が非常に大切です。

・若年性認知症(2006.06)

最近映画などでも話題になっている若年性認知症は、65歳未満で発症する、記銘力障害を中心とする脳機能の低下の総称です。原因の多くは、高齢者と同様、アルツハイマー型認知症といわれています。現在ではわが国では10万人程度と推測されています。脳の検査方法も発達していなかった頃、あるいは現在でも、認知症は高齢者の疾患という考えが、医師の方にもあり、実際、働き盛りの年齢の方が症状をきたした場合、初期は物忘れというより、うっかりミスや、不注意が目立つようになってきた程度のため、ストレスなどによる「うつ状態」と診断される場合もかなりあるようです。若年性認知症の問題は、高齢の方と同様、日常生活を過ごせなくなるほどに症状が進行することはもちろんのこと、一般に、男性であれば、家族の中心で、経済的な負担を担っている方に発症するため、比較的若い年齢で発症した脳卒中と同様に、介護や医療の面のほかに、経済的な面でも大きな問題となります。治療についてはこれといった治療法があるわけではありません。診断も初期であれば困難で、画像診断などでわからない場合も多いのですが、最近では、脳血流検査や脳の海馬の容積を測定することなどによる方法で、早期に診断し、症状の進行をある程度抑制する薬剤の投与が勧められています。ただ、内服薬だけではもちろん十分ではなく、できるだけ脳の機能を活用させることが必要で、そのためには仕事が継続できなくなった方でも、家に引きこもりがちにならないように、地域活動に参加したり、文化教室などに参加して脳を常に活動させること、また、若年性認知症の方に適した施設がないのが問題ですが、65歳未満の方でも介護保険の適用を受けられますので、デイサービスなどの利用も有効と考えます。

・脳梗塞 最新の治療:t-PA(2006.05)

昨年10月、脳梗塞の治療薬としてt-PAと呼ばれる薬剤が、日本でも保険適応となりました。脳梗塞を発症してもこの薬剤の投与によって、社会復帰できる人が5割も増えた、などの報告があり現在最も期待されている薬剤です。従来から脳梗塞の治療は、詰まった血管は仕方ないとして、いかに周辺の脳細胞を保護するかに重点がおかれていました。抗血小板剤や脳圧を下げる薬剤などで周囲の血流を何とか保って、症状の悪化を防ぐことが目的といえました。これに対して、t-PAの治療目的は、詰まった血管に直接作用して血栓を溶かし、血流を再開させることにあり、治療としては理想的なものといえます。ただし、脳梗塞であっても、軽症の場合は使用することは少なく、また、いつでもどこでも使用できる薬剤ではありません。まず、第一に発症から3時間以内の超急性期の脳梗塞に限ってしか投与できません。また、この薬剤を使用できる施設は現在ではまだごく限られています。理由は、脳梗塞発症から3時間以内の超急性期の患者さん限って投与しないと、血栓は溶解されても、その後、脳出血を合併する危険が非常に高くなることにあります。発症してから病院に到着してすぐにCT、MRI検査が可能で、合併症が起きた際に緊急で脳外科手術ができる施設が必要で、これら基準を満たせる施設がまだ限られているのが現実です。せっかくのよい治療薬も、使用できる施設が限られているのでは、同じ脳梗塞の患者さんでも、地域や受診する医療機関によって、受けられる治療が異なり、不平等が生じることにもなります。また、介護や医療費にしめる脳梗塞後遺症の方の割合がかなり高いことを考えれば、脳梗塞の治療が医療費削減の直接的な効果を示すことにもなり、治療の平等化や、医療費削減の面からも、脳卒中センターと呼べるような施設の充実が急務なのではと考えます。

・解離性脳動脈瘤(2006.04)

くも膜下出血の原因となる脳の動脈瘤は普通、血管が二つに分かれるところの股の部分が風船の様にふくらんでできるものが多く、嚢状動脈瘤と呼ばれます。これに対して、解離性動脈瘤と呼ばれる動脈瘤は、血管の壁が裂けることによって、血管の内腔が狭くなったり、血管壁が紡錘状にふくらんだりするもので、ふくらんだ動脈瘤が破れるとくも膜下出血に、狭くなった内腔がふさがると脳梗塞に至る動脈瘤です。胸部の解離性動脈瘤は稀なものではなく、胸痛の際の重要な鑑別すべき疾患ですが、脳の血管では以前はかなり珍しい疾患と考えられてきました。しかし、近年の画像診断の進歩により、脳卒中の原因疾患として増加傾向にあります。原因は外傷や稀にカイロプラクテイックなどの外力などの関与が言われていますが、外傷以外では動脈硬化、高血圧などの関連が指摘されています。年齢は30−40歳代に多く、椎骨動脈と呼ばれる頸椎の骨の中を走る血管に多いとされています。症状は、血管が裂ける際に、くも膜下出血を疑わせるような激しい後頭部痛や、頚部痛が特徴的で、血管が閉塞した場合には顔のしびれや、手足の麻痺など、脳梗塞の症状を来します。診断は、くも膜下出血や脳梗塞を来していれば通常の画像診断で判断できますが、その原因が解離性動脈瘤と診断できるには、症状から解離性動脈瘤を十分疑った上で、MRAやカテーテル検査を実施しないと診断できないことが多く、当初は見過ごされる場合もあります。治療は出血の有無や、梗塞の有無で様々な治療法が検討されます。手術が必要な場合もあれば、点滴などで治療できることもあり、中には自然治癒する場合もあります。いずれにしても早期に診断をつけることが重要で、激しい後頭部痛や頚部痛の際の鑑別診断として常に考慮しておくことが肝要です。

・骨粗鬆症(2006.03)

年齢が進むにつれ、骨の機能も低下してきます。特に閉経期を境に女性の骨は弱く、脆くなってきます。
骨の新陳代謝をコントロールする女性ホルモンのバランスが悪くなり、古い骨がどんどん吸収される一方で、新しい骨を作る速度が追いつかずに骨の密度が少なくなります。他にも、カルシウム摂取が不足したり、外出することが少なくなり、日光に当たらないことがビタミンDの不足を招くなど、いくつか要因があげられます。骨粗鬆症は、無症状の場合もありますが、海綿骨と呼ばれる成分が低下するため、海綿骨を最も多く含む脊椎の骨が最初に脆くなります。そのため背骨が変形したり、身長が低くなってきたりします。転倒した時や少し重いものを持ち上げたとき、ちょっとした動作だけでも急な腰痛を引き起こし、圧迫骨折を来すことがあります。大腿骨の骨折や手首の骨折など、わずかな外傷でも生じる様になり、圧迫骨折や、大腿骨の骨折は高齢の方の日常生活レベルを著しく低下させる原因ともなります。骨粗鬆症の予防と治療は、骨を強くすることにつきます。カルシウムを多く含む乳製品や魚類の摂取を心がけること、ビタミンDは魚などの食事からも摂取できますが、日光浴をすることで体内でのビタミンDの合成が促進されます。適度に歩いたり、運動をすることは日光浴にもなりますし、骨を鍛えることにもなります。
骨密度は比較的簡便に医療機関などで測定できますので、極端に骨密度が低い方や、背骨の変形などがある方には薬物療法も勧められます。これまで、ビタミンDやカルシウムを補う薬剤が中心でしたが、最近では骨が吸収されることを防ぐ薬剤が開発され、中には50%以上も骨折を防止できたとの報告もあります。

・頸動脈エコー検査(2006.02)

脳の血管が詰まる病気である脳梗塞の主な原因には、脳の細い血管が詰まるラクナ梗塞、脳や頚部の比較的太い血管が細くなったり、傷んだりして起きるアテローム血栓性梗塞、心臓から血栓が脳に飛んで血管が詰まる脳塞栓、の3つがあります。ラクナ梗塞は高血圧、アテローム血栓性梗塞は高脂血症や糖尿病を有する人に多く、これまで日本では塩分摂取が多いことによる高血圧症に伴うラクナ梗塞が多かったのですが、最近では食生活の欧米化と共に、アテローム血栓性梗塞が増加してきています。中でも頚部血管の動脈硬化の進行に伴い、血管の内面の壁が分厚くなる状態は、アテローム血栓性脳梗塞の最大の原因になっています。このため、頸動脈血管の内面の状態を知ることが非常に重要となり、近年その検査方法として頸動脈エコー検査が脳梗塞の予防や治療に取り入れられるようになってきました。頸動脈エコー検査は、腹部や心臓のエコー検査同様、超音波検査で、痛みを伴うことなく血管の内腔の状態や内膜の厚さを計測できます。血管の内腔が狭くなっていれば、程度によっては手術や薬物治療が必要になることがあり、内膜が1mmを超える厚みがあれば動脈硬化の進行が確認できます。これまで、動脈硬化を数値で評価する方法は比較的少なかったのですが、高脂血症の治療により頸動脈の血管の厚さが減少し、動脈硬化が改善したとの報告もあることから、頸動脈エコー検査を定期的に行うことで、高血圧、糖尿病、高脂血症など、動脈硬化の危険因子を有する方の治療評価としても非常に有用となっています。今後脳梗塞の予防と治療に頸動脈エコーによる評価はますます重要になると思われます。

・腰椎椎間板ヘルニア(2006.01)

脊椎の骨と骨の間には椎間板があり、クッションの役割を果たしています。中心部は髄核と呼ばれる柔らかい組織で、周囲は線維輪と呼ばれる組織で構成されています。髄核が圧迫されて線維輪からはみ出した状態がヘルニアと呼ばれるもので、たとえてば、饅頭が圧迫されて饅頭の皮から中のあんこがはみ出してきた状態がヘルニアといえます。原因は日常的に重いものを持ち上げる仕事をする人や、腰に負担のかかりやすいスポーツをしている方、仕事で一日中たつことや座っている方で、比較的若い人に多く、高齢になると椎間板の変性が強くなり、脊柱管狭窄症の状態が多く見られるようになり、同じ椎間板障害でも、治療の上では区別が必要になります。症状は腰痛と下肢痛で、腰痛は、くしゃみや、少しかがんだだけのようなふとしたきっかけで、歩行もできないほどの痛みになることもあります。下肢痛は坐骨神経痛と呼ばれるものが多く、臀部から太ももの裏側を電気が走るような強い痛みとしびれを伴います。足先に力が入らないようになることもあります。ぎっくり腰と呼ばれる急激な腰痛の主な原因が椎間板ヘルニアといえます。診断は症状からある程度可能ですが、MRIなどの画像診断が一番の決め手となり、その後の治療方針を決める上でも画像診断により早期に適切な診断をつけることが重要です。治療は安静の上、内服薬や坐骨神経痛が強い場合は神経根ブロックなどの注射による治療が主なもので、コルセットや牽引などを中心とした理学療法も有効となります。ただ、難治な場合には手術加療が勧められます。最近では内視鏡を使用したヘルニア除去の手術法が開発され、小さな傷で、術後数日で歩行が可能になり、1週間程度の入院で済むようにもなってきています。強い腰痛や下肢痛を繰り返す方は一度専門医を受診してみてください。
2005年度

・セカンドオピニオン(2005.12)

現在、ご自身がかかっている疾患についての診断や治療について、主治医以外の意見が聞きたいことはどなたでもあると思います。ことに手術が必要といわれたり、生命に関わる疾患で、治療法の選択をしなければならないような場合、主治医の意見が十分信頼できないような時や、主治医の診断や治療方針は信頼できるが、できれば他の意見も聞いた上で納得して治療を受けたいと考えても、どこで相談すればいいかわからないことは、日常的にあることと思います。また、別の医師に相談しようと思っても、症状の経過を書いた紹介状などを主治医に頼むことが難しくて、他の意見を聞けない場合もあると思います。このようなとき、誰もが気軽に、複数医師の意見を聞くことができるようにということで、セカンドオピニオンと呼ばれる仕組みが、最近日本でも普及するようになってきました。現在のところ保険診療で認められた制度ではありませんが、大学病院や公的な病院では専門外来をしているところもあります。制度化して保険診療でセカンドオピニオンが受けられるようになることも大事なのですが、むしろこの仕組みがさらに普及するためには、医療が進歩して一人の医師の考えや知識だけでは十分と言えないことが多くなってきたこと、様々な治療選択肢がある中で治療方針を医師だけではなく、医師と患者が協力して相談して決めていくことを、医師も患者も共に認識することが重要と思います。セカンドオピニオンには、医師と患者は信頼関係に基づいた上で十分利用することができれば、患者は病気についての認識と知識が深まることで自分自身で判断できることが多くなり、医師としても誤診や誤解を回避できるなど、たくさんのメリットがあります。

・軽度認知障害:MCI(2005.11)

近年、痴呆症は言葉の響きが悪いという理由で、認知症という言葉で置き換えられるようになってきました。字をみて言葉の意味が理解できる点では、認知症では何のことかわかりづらく、痴呆症の方が適切かと思いますが、今後この欄でも認知症という言葉で統一していきます。さて、以前にも物忘れについて書いたことがありますが、未だに有効な治療法が確立されているとはいえません。ただ、ある程度進行を抑制する内服薬もあることから、認知症に至るまでに症状の出現に気づき、早期にできるだけの手だてを尽くして進行を予防することが重要であることは他の疾患と同様です。この点で最近注目されているのが軽度認知障害:MCIと呼ばれる状態です。簡単に言えば軽い物忘れということですが、診断された人の10−15%が一年後にはアルツハイマー型の認知症に進むとされています。診断基準としては、自覚的にも、周囲の人にも物忘れがあると感じられる、運転や家事などはできる、記憶以外の問題はない、年齢的な変化以上の記憶障害があるなどです。これらの診断基準なら誰しも心当たりが出てきて不安になってしまうのですが、厳密には正常範囲内の物忘れとの区別をつけるのは困難なことが多く、様々な診断テストや画像診断が必要になります。いずれにしても確立した治療法がない以上、心当たりのあるような方で、一人暮らしなどで人と話す機会が少ない、趣味がない、外出することが少ないなど、環境的にも物忘れが進行する危険度が高い方は、早期にこれらの状況を改善する必要があります。MCIとの診断をつけた上で、内服薬などの治療が必要かどうかは、最近では物忘れ外来を開設している病院もあり、一度受診されるとよいかと思います。

・血管内治療(2005.10)

脳神経外科の手術といえば、「頭を開かれる」、「脳にさわられる」といった一般には他の部位の手術よりも怖い手術といったイメージがあるようです。実際、頭蓋骨を切って脳に直接触れるわけですから、手術をする医師としても、経験をつめば決して怖いわけではないのですが、やはり体への負担などを考えれば、できれば頭を開かなくてよい方法はないかと考えるのは当然といえます。そこで近年考案され、急速に技術と機器が発達してきたのが血管内治療です。文字通り血管の中から脳外科的な治療をするわけですが、現在ではさまざまな疾患の治療について適応があります。血管内治療には大きく分けて、血管を閉塞する、血管内の血栓を溶かす、狭くなった血管を広げる、の3つに分けられます。血管を閉塞する場合は、正常な血管を閉塞するわけではなく、くも膜下出血をきたした脳動脈瘤や、未破裂脳動脈瘤、脳動静脈奇形など、異常な血管に金属製の特殊なコイルを異常血管につめることで血栓を形成し、将来の出血を予防します。血栓を溶かす場合は、発症してから数時間以内の脳梗塞で、太い血管が詰まっている場合、目的とする血管にカテーテルを導入し、血栓溶解剤を注入して血栓を溶かし、血流を再開させます。血管を広げるのは主に頚動脈の狭窄症の場合で、バルンと呼ばれる風船のようなものを、狭窄している部位で膨らませて血管を広げます。いずれも血管内治療の基本的な技術から応用された治療で、現在のところ手術に伴う危険性や確実性の面から、すべてが血管内治療を行えるわけではないのですが、将来的にはかなりの部分で、開頭による手術に取って代わるものと期待されています。

・もやもや病(2005.08)

れっきとした疾患名です。国際的にも日本語がそのまま疾患名となるのは珍しいのですが、 脳血管撮影で両側の頚動脈が消失し、もやもやした細い血管が発達してくる特徴的な所見を持つ疾患が日本で多く見つかったことから、日本語で命名されています。原因は不明で進行性に頭蓋内の主要な血管が細くなって消えていく疾患です。
小児の脳卒中ともいえる急性小児片麻痺の主原因で、症状は手や足の麻痺で発症するほか、知能低下、頭痛、痙攣などが主な症状です。中でも、風船を膨らませたり、ハーモニカを吹いたり、熱いうどんを食べるというような過換気をきたす動作で、意識を失ったり、手や足が麻痺したり、しびれたりするような症状は特徴的で、この場合は脳の血流低下による症状と考えられます。小児期で発症する場合はほとんどが脳の虚血症状ですが、成人になって初めてもやもや病が発症する場合は、細くなった血管が破綻することによる脳出血が、脳虚血よりも多いとされています。
診断は頭部のMRIやMRAで、主要な血管が消失していたり、かなり細い脳血管が発達してきている所見で比較的容易につきます。脳血管撮影が確定診断となり、脳血流検査などが診断と治療の参考になります。
小児期で症状を繰り返す場合は治療の対象となり、多くの場合脳外科手術による血行再建術が行われます。血行再建は頭皮などを走行する頭蓋外の血管を、頭蓋内の血管に吻合して血流を改善する方法がとられ、最も有効な治療とされます。ただ、成人の場合には小児と異なり手術的加療が必ずしも有効とは言えず、薬物などによる保存的治療が考えられます。それほど多い疾患ではありませんが、小児に多いことと、特徴的な症状を示すことから、お子さんの頭痛や痙攣などの際には、われわれ脳外科医が常に注意すべき疾患といえます。
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